誕生日の朝、私は消火器を握っていた

今日は誕生日だった

今日は私の誕生日だった。

朝起きた。

誰からも「おめでとう」がない。

殿からもない。

こむぎからもない。

まぁ平日だし忙しいのだろう。

そう思おうとした。

思おうとはした。

しかし誕生日である。

少しくらい期待はする。

なのに誰も言わない。

地味にイラっとした。

そんな気持ちのままお弁当作りを始めた。

そして数十分後。

私は消火器を握っていた。

誕生日の朝である。

なぜこうなった。

フライパンから火が出た

その日はいつも通りお弁当作りをしていた。

使っていたのはステンレスフライパン。

すると突然。

火が出た。

一瞬ではない。

ちゃんと火だった。

思わず焦る。

頭の中は真っ白。

でも体は勝手に動いた。

以前買っておいたスプレー式消火器を取り出した。

実はこの消火器。

買っただけではない。

いざという時すぐ使えるように、事前にフィルムも外してあった。

まさか本当に使う日が来るとは思わなかったけれど。

その準備が役に立った。

無事に鎮火。

本当に焦った。

殿を呼んできて

私はこむぎに言った。

「殿呼んできて!」

こむぎは呼びに行った。

そしてしばらくして。

殿がやって来た。

のんびりと。

その頃にはもう火は消えていた。

消火活動は終了していた。

現場検証の段階である。

そして殿の第一声。

「消火器あってよかったねー」

である。

待ってほしい。

それを言う人

その消火器。

買ったの私である。

置いたのも私である。

フィルムを外したのも私である。

そして使ったのも私である。

そもそも殿は消火器が家にあることを知っていたのだろうか。

かなり怪しい。

そんな人が。

鎮火後に登場し。

「消火器あってよかったねー」

と総括している。

火事のニュースのコメンテーターみたいな立場になっている。

いや。

現場にいなかったよね?

誕生日とは

結局その日は殿のお弁当はなしになった。

こむぎにはおにぎりを持たせた。

私は朝からフライパンを片付け。

消火器の後始末をした。

そして思った。

誕生日って何だろう。

ケーキもプレゼントもいらない。

せめて朝一番に。

「おめでとう」

その一言くらい欲しかった。

まさか誕生日の朝に消火器を使うとは思わなかったけれど。

少なくとも今年の誕生日は。

一生忘れないと思う。

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