人生初の救急車
とある夜中。
私は今まで経験したことのない頭痛に襲われた。
頭が割れるのではないかと思うほど痛い。
寝ても痛い。
起きても痛い。
横になっても痛い。
しばらく耐えた。
様子も見た。
でも全く良くならない。
これはまずい。
そう思って救急車を呼んだ。
人生初の救急搬送である。
付き添いとは
救急車が到着した。
救急隊員さんがいろいろ質問してくる。
当然だ。
本人は痛みでまともに話せない。
だから付き添いの殿が答える。
はずだった。
ところが。
自宅の電話番号がわからない。
私が答えた。
常用薬はあるか。
私が答えた。
持病はあるか。
私が答えた。
血圧はどれくらいか。
私が答えた。
いや。
付き添いとは何なのだろう。
血圧計の持ち主
我が家には血圧計がある。
殿が買った。
そして殿だけが毎日測っている。
朝測る。
夜測る。
数字に一喜一憂する。
しかし私は一度も使ったことがない。
だから自分の血圧は知らない。
それは仕方ない。
私も知らない。
でも。
少なくとも救急車の中で。
一番元気な人が答えてくれてもよくないだろうか。
私は頭が割れそうなのである。
病院へ
病院に着いた。
MRIを撮った。
その頃には痛み止めや点滴が効いてきていた。
楽になったのか。
麻痺していたのか。
正直よくわからない。
でも少し会話はできるようになった。
そこで私は言った。
「こむぎもいるし、一度帰っても大丈夫だよ」
言った。
確かに言った。
一度だけ。
社交辞令みたいなものである。
日本人ならわかると思う。
本気で帰れと言っているわけではない。
本当に帰った
ところが。
殿は帰った。
本当に帰った。
こむぎを連れて。
そそくさと帰った。
MRIの結果も聞かない。
医師の説明も聞かない。
今後の話も聞かない。
何も聞かない。
帰った。
あまりにも迷いがなかった。
主治医も驚く
しばらくして主治医が来た。
MRIの結果説明である。
そして病室を見渡した。
私ひとり。
主治医が言った。
「えーーーーーー???」
本当に言った。
ドラマみたいな反応だった。
でも私も同じ気持ちだった。
家族なのに。
当事者なのに。
なんとも言えない虚無感が押し寄せた。
一番驚いたこと
結果として大きな病気は見つからなかった。
それは本当に良かった。
心から良かった。
でも。
救急搬送された私は。
夜中。
ひとりでタクシーを呼び。
ひとりで帰宅した。
家に着くと。
そこには先に帰宅済みの殿がいた。
考えてみれば不思議である。
救急搬送されたのは私。
付き添いだったのは殿。
なのに。
帰宅順は殿が先だった。
あの日の出来事を一言でまとめるなら。
救急車には乗った。
MRIも撮った。
でも一番驚いたのは。
殿の帰宅判断だったのである。

コメントを残す